変形性膝関節症について

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専門家はどう見る?変形性膝関節症の最新治療の今と展望

RELEASE:
UPDATE:2019-07-24

変形性膝関節症の”最新治療”と聞いて、どんなものを思い浮かべますか? すぐに浮かばないという方にも読んでいただきたいのが、この記事です。

今回は、国際軟骨再生学会議(ICRS)の会長としても活躍された、大阪保健医療大学の中村憲正教授にお話を伺いました。近年話題となっている新治療について、スペシャリストの考えやアドバイスをお届けします。

膝の手術を勧められたけど受けたくない。別の方法を探している。きっと、そんな方へのヒントになるでしょう。

従来の一般的な治療法

進行性の病気である変形性膝関節症は、適切に対処しなければ症状が悪化していきます。まず病院で行われるのが、悪化予防を目的とした保存療法。これは”手術ではない治療法”という意味で、鎮痛薬の服用やヒアルロン酸注射、運動、サポーターの着用などが行われます。中村教授によると「保存療法の中でも、運動は特にエビデンス(根拠)が確立されている」そうです。

しかし、こうした保存療法を6ヶ月以上継続しても症状の改善が見られない場合や、膝関節の変形が進行してしまった場合、医師が手術を勧める目安です。変形性膝関節症に対する手術としては、関節鏡視下手術や骨切り術、人工膝関節置換術があります。中村教授は「手術は有効な方法ですが、まずは原因をしっかり突き止めて早い段階で適切な治療を始めれば、手術が必要になるまで進行するのを防ぐことはできます」と話します。まずは保存療法の徹底が大切なのです。

手術を即断できない場合はどうすべきなのか

医師から手術を勧められたとはいえ、骨切り術や人工膝関節置換術は大きな手術。すぐに決断するのは難しいのではないでしょうか。実際に「手術を勧められても3割の患者さんが拒否している、という調査結果も出ているんです」と中村教授は強調します。手術を受けたくない人は、ただ変形性膝関節症が進行するのを待つしかないのでしょうか?

保存療法と手術との間を埋める治療法が登場

手術そのものに対する恐怖や術後の入院期間の長さなど、手術を拒む理由はさまざま。症状を自覚したときにはある程度進行しているケースも多いのが変形性膝関節症の特徴で、末期になって初めて病院を訪れる患者さんも少なくないそうです。末期になると、一般的には人工膝関節置換術(膝関節を人工のものと置き換える手術)しか手段はないとされています。

変形性膝関節症の治療法に表れた変化

「これまで、ヒアルロン酸注射などの保存療法が効かなかった場合、その次は”手術”まで飛んでしまっていたんですね。できれば手術は避けたい、というのが患者さんの気持ちですから、メスを入れる前に何かできないか? というのが医師側のテーマでした。まさにこの保存療法と手術との間、いわばブラックボックスだったところを埋める可能性のある治療法が、新たにできたのです」

中村教授がそのように語る治療法とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

新しい領域“バイオロジクス”が拡大

「変形性膝関節症もそうですし、例えばプロスポーツ選手のケガでも厄介になるのが、軟骨の治療なんです」と話す中村教授。冒頭でもお伝えしたように、国際軟骨再生学会議の会長として軟骨治療に尽力されてきたスペシャリストです。

「軟骨には血流がないので、損傷すると自然治癒することはほとんどありません。治療に難渋するのはそのためですね。現在行われている軟骨治療の考え方としては、骨髄刺激法、インプラント、バイオロジクスという3つの柱があり、拡大し続けている新しい領域がバイオロジクスです」

軟骨の治療法は大きく三つある

1つ目の骨髄刺激法では、まず軟骨の損傷部分に小さな穴を開け、骨髄を刺激。そこから出た血液を損傷部分に流れ込ませ、血液に含まれる細胞の作用によって軟骨の修復を目指します。2つ目のインプラントは、軟骨や骨の損傷部を取り除き、人工物に置き換えるという考え方です。そして3つ目が、バイオロジクス。生物がもともと持っている力を活かす治療の考え方のことで、これこそが近年、変形性膝関節症の最新治療として研究・応用が進んでいる領域です。

中村教授は「自分の身体の組織を使った安全な治療法で、バイオセラピーと呼んでいます。変形性膝関節症に対して行われるのは、PRP療法や脂肪幹細胞治療、培養幹細胞治療といったものですね」と話します。臨床の場で用いられるこれらのバイオセラピーについて、詳しく伺ってみました。

自己血液を使うPRP療法

自己血液を利用する「PRP療法」

血液中には血小板(けっしょうばん)という成分があり、傷を修復する役割を担っています。この血小板の力に目をつけたのがPRP療法。血小板を豊富に含むPRP(多血小板血漿;たけっしょうばんけっしょう)を抽出し膝へ投与することで、損傷した部分の修復や痛みの緩和を目指す治療です。実際に、炎症や痛みの緩和といった効果も確認されています[1]。

中村教授は「PRPに含まれる成長因子やサイトカインというタンパク質は早期に患部へ作用するため、比較的早い段階で炎症を抑えたり、痛みを改善したりといった効果が期待できます」と太鼓判を押します。

自己脂肪を使う幹細胞治療

自己脂肪を使う「幹細胞治療」

腹部などから採取した脂肪を遠心分離にかけ、得られた間質血管細胞群(SVF)という細胞を膝の関節に注入する方法です。この中に含まれる脂肪幹細胞(ASC)という細胞には、抗炎症や鎮痛の作用が認められています[2]。「幹細胞は膝関節内に注射されても、しばらく残存することが分かっている」そう。持続的な効果を期待できるのが特長です。

幹細胞を増やす培養幹細胞治療

幹細胞をたくさん注入するため多くの脂肪を採取すると、そのぶん身体への負担も増加します。そうした懸念があるときは、少量の脂肪から幹細胞を増やして膝関節に注入する、培養幹細胞治療という選択肢も。脂肪採取量を抑えつつ多くの幹細胞を得ることができるため、身体への負担が少ないというメリットがあります。「凍結保存できるので、一度に全てを使い切らず将来に備えたり、状況に応じて追加で使用したりできる」と中村教授は話します。

バイオセラピーに期待できること

では、バイオセラピーは、具体的にどのようなメカニズム(仕組み)で変形性膝関節症に効果をもたらすのでしょうか?

実は近年、変形性膝関節症の進行度の指標となるバイオマーカーという物質の研究が進んでいるそうです。それによって明らかになったのが、変形性膝関節症の人の膝関節内では、コラーゲンやプロテオグリカンといった、軟骨を構成する成分が減少していることや、骨を壊す破骨細胞(はこつさいぼう)が増えていることでした。そうした状態を整えて炎症や痛みを抑えることが、変形性膝関節症に対してバイオセラピーが果たす、根本的な役割なのです。

変形性膝関節症の最新治療「バイオセラピー」がもたらす効果

とても興味深かったのは「失った部分が元のように綺麗に生え揃うといったことは、現時点では確認されていないんです。ただ、そういう場合でも関節内の環境を整えることでピタッと痛みが治まるケースもあるんですよ。膝関節の変形が重度の患者さんに、痛くないのかと尋ねても”痛くない”とおっしゃるんです」という中村教授の発言でした。

地方でも受けられるようになってきている

効果は分かったけれど、先進的な治療だし、東京や大阪のような大都市でしか受けられないのでは? と思っている方も多いのではないでしょうか。しかし、バイオセラピーは大都市でしか受けられない、というわけではなさそうです。

中村教授は「現在は物流も発達していますので、身体から採取した組織も厳重な管理のもとで専用の施設に送ったり、送り返したりできますね。今回お話ししたようなバイオセラピーを提供するためには”再生医療等提供計画”を厚生労働省に提出する必要がありますが、それが受理されれば治療を提供できます。実際に、地方の病院でも受けられるようになってきているんですよ」と話します。2018年には、認可を受けた150ほどの施設がバイオセラピーを提供しています[3]。

膝の治療でスタンダードな選択肢に

一般的な治療と比べると、バイオセラピーにかかる費用はいずれも高額と言えます。しかし「バイオセラピーを希望する方は非常に多く、一つの選択肢として広まりつつあるんですよ」とのこと。膝を切開したり、入院したりする必要がないのは、やはり患者さんにとって大きなメリットなのでしょう。手術を勧められている状況だとしても、膝にメスを入れる前に可能性があるのならという想いで、こういった治療を希望する方が多いのだと考えられます。

また、先にもお話したように、手術を勧められていても3割の方は手術を拒否している、というのも事実。残りの7割は手術を受けている計算になりますが、本当に納得して手術を受けているのか、定かではありません。手術をせずに治療ができるのなら、そうした人たちの隠れたニーズにも応えることができるのではないでしょうか。

「新しい治療法を広めていくためには、まだまだ多くのエビデンス(証拠)が必要」そう強調した中村教授。ただ着実に成果は積み上がり、地方でもバイオセラピーを提供する施設は増えてきています。スタンダードな治療としてさらに広がっていくのは、遠い未来の話ではないかもしれません。

※本記事の内容については、大阪大学・大阪保健医療大学の中村憲正教授にいただいたコメントを元に構成されています。

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