変形性膝関節症について

OA KNEE

膝の骨切り術は「自分の関節を残す」ための選択肢です

RELEASE:2019-01-29
UPDATE:

変形性膝関節症の手術療法の一つに、骨切り術(こつきりじゅつ)があります。

これは、自分の関節を残すことができる優れた手術。痛みがつらくなってきたという方には、早めに知っていただきたい方法です。この手術の何が良くて、何が懸念点なのか、そして術後の痛みや退院までの期間はどうなのか。整形外科医としてのこれまでの経験も含め、お伝えできればと思います。「手術は人工関節しかない」と思っていた人も、諦める前にご一読ください。

記事の最後では、この手術の持つ新たな可能性についてもお伝えします。

骨切り術とは?

膝の変形が進行してしまった方に行われる手術で、O脚・X脚の改善が可能です。膝関節で骨が向き合う角度を正常に近づけ、荷重バランスを整える意図があります。変形性膝関節症は、軟骨のすり減りとともに進行していく病気。理論上、膝への負荷が大きければ大きいほど軟骨の状態も悪くなっていきます。そのため、膝にかかる負荷を調節することで、軟骨のすり減りを抑制させることができる、というわけです。

変形性膝関節症に対して最も多く用いられるのは、高位脛骨(こういけいこつ)骨切り術という術式[1]。これは、すねの骨の上部をくさび形に切り開いて人工骨を入れ、金属を使って固定する方法です。他に、太ももの下部を切る遠位大腿骨(えんいだいたいこつ)骨切り術という術式もあります。

高位脛骨骨切り術
高位脛骨骨切り術

メリット

①自身の関節を残すことができる
自身の関節を温存できるのは大きなメリットと言えるでしょう。将来的に変形性膝関節症が進行してしまったとしても、膝関節を人工のものと取り換える手術(人工膝関節置換術)を受けることができます。

②金属が体内に残らない
骨切り術では、くさび形に骨を切開した部分に人工骨を挿入し、関節の角度を調整します。この人工骨は骨に吸収される素材でできており、自身の骨とくっつけば、固定に使用した金属を取り出すことができます。骨の固定に使用した金属が体内に残らないのはメリットと言えるでしょう。骨がくっつくまでの期間は平均24.4か月(およそ2年間)だった、という報告があります[2]。

③人工骨が吸収されれば、活動制限がない
術後にはリハビリが必要ですが、骨の固定に使った金属を取り除いてしまえば活動制限がありません。スポーツや重労働を行うことも可能です。そのため、まだ年齢が若かったり、農作業で積極的に膝を使ったりと、活動性の高い人には特に勧められる手術です。空手の師範をされていた患者さまが、術後の経過も良好だったため練習へ復帰したというケースも、以前に勤務していた東京女子医大時代にありました。

デメリット

①身体へ負担がかかる
膝を切開する手術ですから、身体へはある程度の負担がかかります。これについてですが、正確な手術を補助し、身体への負担を軽減するためのナビゲーションシステムという新たな技術が用いられることがあります。これは、骨を切る位置や長さ、人工物の設置箇所などを正確にナビゲートしてくれるもので、人工膝関節置換術でも使われる有用な技術です。

②入院やリハビリが必要である
術後は入院が必要なため、まとまった時間の取れない方には難しいかもしれません。ただ、必要とされる入院期間は短くなってきました。以前は退院まで2〜3ヶ月を必要としていましたが、現在の東京女子医大では3週間ほど。術後は比較的早い段階からリハビリを開始し、入院中、退院後も継続することになります。

③自身の骨と人工骨がくっつくまで活動制限がある
人工骨が自身の骨とくっつけば活動制限はありませんが、それまでは正座や激しい運動などを控える必要があります。手術を受けてどんどんスポーツをしたいという方でも、少し我慢の時期が必要です。ただ、日常生活では大きな制限なく過ごすことができます。

骨切り術を受けられる条件

①軟骨の損傷が膝の内側・外側どちらかであること
膝の内側・外側ともに軟骨を損傷している場合、膝関節を全て人工のものにする人工膝関節全置換術が主な適応となります。
[詳細]【人工膝関節について】手術方法と、決断前に考えてほしいこと

②軟骨の損傷が重度でないこと
膝関節の角度を調節するとは言え、軟骨の下にある骨がむき出しになってしまうほど激しく損傷している場合、骨切り術の適応は難しくなってしまいます。この場合は人工関節置換術のほうが症状の改善を見込めるでしょう。

③靭帯を損傷しておらず、膝の動く範囲が広いこと
関節内にある前十字靭帯が損傷している方は、膝の安定性が失われているため、手術を受けても症状が改善されにくいことがあります。ただ、靭帯に問題がない方であっても、術前に膝の動かしづらさがあれば、術後に大きく改善されることは期待できません。

④骨粗鬆症を患っていないこと
骨粗鬆症は骨が脆くなる病気です。その状態で骨を切るのはリスクが大きいため、骨粗鬆症を患っている方には適応できません。

⑤高度の肥満でないこと
肥満は、骨切り術後の経過に悪影響を及ぼすとされています[3]。手術を受けようと受けまいと、肥満の方は減量することが最も基本的な治療です。

“人工関節を遅らせる手術”と言えるのか

気になるのが手術後、長期の成績。骨切り術は日本でも長い歴史がありますが、術後の成績は様々な論文で示されています。人工関節となるのを遅らせる手術とは言われる骨切り術ですが、実際のところはどうなのでしょうか。

2008年の論文では、134の膝(患者数は111人)に骨切り術を行ったところ、5年後に94%、10年後に79.9%、15年後に65.5%、18年後にも54.1%がその状態を維持していたと報告されていました。「骨切り術は、人工関節にするのを遅らせるための有効な手段である」と結論づけられています[4]。

また、2010年に発表された研究報告でも、上記と似通った数値が示されていました。骨切り術を行った394人について、その5年後に95%、10年後には79%、15年後にも56%が、人工関節にすることなく過ごせていたと言います。この論文でも、骨切り術の有用性は主張されています[5]。

こうした報告を見ても、骨切り術は人工関節となるのを遅らせるための有用な手段、と言えるでしょう。変形性膝関節症の進行を完全に食い止めることはできませんが、将来的に人工関節を入れるのを遅らせるという意味でも、検討してみる価値がありそうです。

骨切り術を大切にしたい

骨切り術は、変形性膝関節症の標準治療*にあたると考えられます。ただ実情としては、変形性膝関節症の手術についてインターネットで調べても、ヒットするものの大部分が人工関節。骨切り術は陰に隠れた存在になっているようにも思えます。

私が感じているのは「変形性膝関節症がある程度まで進行したら、人工関節」という風潮への懸念です。整形外科医としては、人工関節の前に、まずは自身の関節を温存できる骨切り術を検討していただきたいと思っています。東京女子医大でも同様の方針でしたが、関節を失うのは、やはり最終手段ではないかと考えるからです。骨切りという手段があるのに、それを飛ばして人工関節を勧めるのは、可能な限り避けるべきでしょう。また、骨切り術を受けるのは早ければ早いほど良いとも思います。この手術を受ける時期は人工関節置換術のように「痛みに耐えられなくなったら」といった指標があるわけではなく「患者さまの踏ん切り」によって決まるものとお考えください。

とはいえ、骨切り術も完璧な手術というわけではありません。術後に数年経って、人工関節の手術を受けざるを得なくなってしまう患者さまがいらっしゃることも事実です。現状を改善した上で、いかに人工関節を遅らせるか、あわよくば回避できるか、というところに期待するのが、骨切り術なのです。

*確かな根拠に基づき、考えられる治療法のなかで最良とされる治療法のこと

新たな治療法を併用できる可能性も

先述の通り変形性膝関節症は、膝への負荷が膝の内側か外側どちらかに集中し、軟骨がすり減って進行します。ですから、その状態を整えることが病気の進行を遅らせることに繋がるわけです。横浜市立大学の腰野先生らが1979年に発表した論文をはじめ、骨切り術によって軟骨の状態が改善したとする報告も存在します[6][7]。このことを踏まえ、一つの可能性をご紹介しておきましょう。

その可能性とは、骨切り術と再生医療を併用する、というものです。変形性膝関節症が末期まで進行し人工関節という手段しかなくなる前に骨切り術を行って、骨の角度を矯正。そこへPRP治療や幹細胞治療といった再生医療を行えば、膝関節内の環境を改善する効果が高まるのではないか、という理論です。

この理論は、2018年5月の第91回日本整形外科学会においても議題に上がりました。多くの同意も得られていましたので、効果は見込めると考えてよいのではないかと思います。人工関節にすれば自身の膝関節は失ってしまうことになりますから、どうしてもそれを避けたいという方は、骨切り術後の早い段階で再生医療を受けてみることを検討してみても良いかもしれません。骨切り術単独であっても、もちろん良い選択肢であると思います。

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