変形性膝関節症について

OA KNEE

膝の再生医療(バイオセラピー)の種類と効果【2020年版】

RELEASE:
UPDATE:2020-12-08

変形性膝関節症の治療といえば、これまでは保存療法(リハビリテーション、ヒアルロン酸の関節内注射や内服薬などの薬物療法)の効果のない患者様は、手術療法しか選択肢はありませんでした。近年この両者の間を補完する立ち位置の最新治療として、再生医療(整形外科の世界ではバイオセラピーと呼ばれています)が注目されています。当院が自由診療として患者様に提供している治療です。
しかし一般的には「高額な自費診療」との印象だけが一人歩きしているかもしれません。どんなメカニズムで効果を発揮するのか、痛みや関節の損傷はどの程度回復するのかに関する医学的根拠(エビデンス)が十分に世に広まっていないことが原因だと思われます。
2020年9月にMEDICAL VIEW社から刊行された整形外科の全国誌である「関節外科-基礎と臨床-特集 幹細胞・PRP・衝撃波-Biologic healingのエビデンス」が刊行されました。全国の専門家が研究結果を掲載している画期的な1冊です。今回はこの雑誌から変形性膝関節症に対する再生医療(バイオセラピー)の最新知見についてまとめてみました。

バイオセラピーとは

バイオセラピーは、疾病や外傷によって損傷を受けた組織の「生物学的」な治癒を目指すものであり、人工物による補完ではなく、生体の治癒を促進させることを目的とした治療で、整形外科医、患者様にとっての理想の治療です。日本では2015年に厚生労働省が施行した再生医療等安全性確保法の規定の中で自由診療として提供されています。今回はバイオセラピーの中から、皮下脂肪を用いる治療と、血液を用いる治療についてご紹介します。

皮下脂肪を用いるバイオセラピー

皮下脂肪を用いるバイオセラピーは2種類あり、どちらも脂肪に含まれる幹細胞の働きを利用します。それによる痛みを含めた臨床症状の改善を期待する治療です。

培養した間葉系幹細胞(ASC)を注入する治療

採取した脂肪組織から幹細胞を分離・抽出し、培養したものを膝関節に注入する方法で、我々のグループで行っている方法です。採取する脂肪量はわずか20cc程度で、脂肪の採取に要する時間は10分程度と、安全性も高く日帰りで行うことが出来ます。培養には1ヵ月程度かかるので、実際に薬液を注入するのは後日になります。

培養間葉系幹細胞の注入プロセス
幹細胞には、自分自身を複製したり他の細胞に変化したりする能力があるだけでなく、エクソソームという細胞伝達物質を分泌することで、周辺組織の抗炎症作用や組織の修復を促すと考えられています(これをパラクイン効果と言います)[1]

幹細胞のパラクイン効果

間質血管細胞群(SVF)を注入する治療

皮下脂肪を約300ml採取し、細胞培養を行わず調製された間質血管成分分画を注射する方法です。脂肪採取日当日に薬液を注入出来るメリットはありますが、300mlと脂肪の採取量が多いのが欠点です。

間質血管細胞群(SVF)の注入プロセス

脂肪を用いるバイオセラピーに関する、よくある質問

Q:どのくらいの効果が期待できる?

変形性膝関節症の患者さんを対象に我々が行なった調査では、培養した間葉系幹細胞(ASC)治療によって、治療後1年にわたって自覚症状の改善が認められました。また変形性膝関節症の、初期よりも進行期、進行期よりも末期の方が、治療効果が出にくいことも分かってきました。同様の報告は別の医療機関からも行われています[1][2]
• また、幹細胞の投与は軟骨の生理的な変化に寄与したという報告もあります。海外で行われた研究ですが、生理食塩水を注射した群では軟骨の欠損が悪化したのに対し、培養幹細胞を注射した群ではその悪化が認められませんでした[3]

Q:幹細胞の数は多いほど良い?

高用量の幹細胞を投与した場合に効果の継続期間が長く、かつ軟骨の増加が大きかったとする報告がある一方で[4][5]、低用量の方が痛みを取り除く効果が大きかったとする報告もあります[6]

Q:培養した間葉系幹細胞(ASC)と間質血管細胞群(SVF)ではどちらがいいのか?

当院が行なった比較試験によると、両者ともに、治療から1ヶ月後には痛みが改善していることが分かります。ASCはその後も改善を続けたのに対し、SVFは治療から1ヶ月以降、数値は横ばいという結果になりました。一方、脂肪採取に伴う有害事象はASCの方が低い(5%vs 34%)という結果でした[7]。トータルで考えると、ASC治療が一歩リードしていると考えています。
※この研究に関する詳細は「膝の幹細胞治療について、培養・非培養の効果を比較検証」をご覧ください。

Q:どんな患者さんに適している?

比較的軽症(変形性膝関節症の病期分類における進行期までの患者様)の方が効果が出ています。当院が行なった研究では、膝の重症度別に改善効果を比較したところ、軽症であるKL2が最も高い効果を示しました[2]。また同様の結果は、他の施設での研究でも得られています[1]

血液を用いるバイオセラピー

血液を用いるバイオセラピーには、以下に示すいくつかの治療法が存在します。

PRP

血液中の血小板の成分だけを抽出したものをPRPとよび、膝関節内、または関節外(関節周辺の靭帯など)に注射します。血小板が「血を固める成分」であるとともに、傷の治癒に作用することはよく知られていますが、傷を治す際、血小板からは成長因子が放出されます。PRP療法はこの働きに着目して開発された治療法です。スポーツ外傷で使われ始めましたが、最近では変形性膝関節症の治療にも用いられています。
なお、変形性膝関節症に用いるPRPには、白血球を多く含むものとあまり含まないものがありますが、どちらがより優れた効果を発揮するかについては、今のところ専門家の間でも議論が交わされている状況です。

血小板が放出する成長因子とその働き

PRP-FD

PRPをフリーズドライ(FD)加工したものです。PRPに比べて成長因子を安定して抽出できる[8]ことや、常温で長く保存できる点がメリットです。国の認可を得た専門の加工施設で精製されているので、品質にばらつきが出ることもありません。

PRP-FD

APS

白血球を多く含むPRPに脱水処理を加えて、抗炎症サイトカイン濃度を高めた溶液です。”次世代PRP”というキャッチフレーズで、国内の医療機関でも導入するケースが増えてきています。

APS

血液を用いるバイオセラピーに関する、よくある質問

Q:PRPは何に効くのですか?

各種研究結果から、PRP療法には組織修復作用と抗炎症作用であると考えられています [9]

Q:PRP療法で軟骨の再生は期待できますか?

軟骨の再生能力に関しては、効果があるとする結果と[10]、効果がないとする結果[11]が両方存在します。この点に関する国内の報告によると、荷重ストレスがかかりにくい部位の軟骨は保護されやすく、ストレスがかかりやすい部位は保護されにくいのではないかと考察されています[12]

Q:PRP-FDの治療効果は?

当院が行なった調査から、Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)の値は注射前と比較して、有意な改善効果が認められました[2]。この効果は初期に近い程高い結果でした。

PRP-FDのKOOSへの影響

<KOOSの経時的な推移>
症状、痛み、日常生活、スポーツ、生活の質といった評価項目において、注射前と比較して、注射1、3、6、12か月後の値は有意に改善していることがわかります。

PRPとAPSはどちらに高い効果が期待できますか?

白血球をあまり多く含まないPRPとAPSの効果を比較した国内の研究によると、注射6か月後の両者の改善効果に有意な差は認められませんでした[13]

バイオセラピーの医学的根拠は充実しつつある

現在、変形性膝関節症治療で行われている、脂肪や血液を用いるバイオセラピーについて、現在までにわかっていることをご紹介しました。
この分野の治療はまだまだわからないことも多くありますが、年々、その知見は確実に蓄積されてきています。今後も新たな知見が得られ次第、随時みなさまにご報告していきたいと思います。

 

 

 

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