変形性膝関節症について

OA KNEE

膝の人工関節とは?手術の決断前に知りたい重要事項

RELEASE:2018-12-27
UPDATE:

“人工の膝関節”と聞くと、なんとなく怖いイメージを抱く人も多いかもしれません。しかし「人生が変わった」「もっと早く手術を受ければよかった」と言う人は多数。旅行や軽いスポーツなどを再開できるため、この手術を受けることで膝の痛みに邪魔されない生活が戻ってくることと思います。

とは言え、手術という方法を選択すれば、膝の切開は不可避。年齢や身体への負担なども考慮すると、簡単に決断できるものではありません。だからこそ、事前に手術方法やメリットだけでなく、リスクまできちんと知っておく必要があるでしょう。1000例以上の整形外科手術を行ってきた私の経験から、人工関節を検討中の皆さまにまず知っていただきたいことをまとめました。

「標準治療」の人工膝関節手術とは?

正式には、人工膝関節置換術と言います。これは、損傷した膝関節を人工のものと置き換える手術で、執刀件数は年々増加中。日本人工関節学会のまとめた以下のグラフを見ても、上昇の一途を辿っていることが読み取れます[1]。

人工膝関節置換術の年間手術件数
【出典】日本人工関節学会「TKA/UKA/PFAレジストリー統計」
人工膝関節置換術を受ける原因となった疾患
【出典】日本人工関節学会
「TKA/UKA/PFA レジストリー統計」

また、初めて人工膝関節置換術を受けたという件数は、直近のデータで年間11万569件。このうち88.41%が変形性膝関節症の治療として行われたものでした。このことからも分かるように、人工膝関節置換術は変形性膝関節症の標準治療にあたります(主に末期の病態が適応です)。ここでいう標準とは「並の」という意味ではなく、現在考えられる選択肢の中で、確かな根拠に基づいた視点で最良とされている治療法を意味します。
日本整形外科学会や世界変形性関節症学会も「非薬物療法と薬物療法の併用によって十分な疼痛緩和と機能改善が得られない膝OA*患者の場合は、人工膝関節全置換術を考慮する」という見解を示しました[2]。つまり、この手術は医学的にもエビデンス(根拠)が確立されていると言えるでしょう。

*OA:変形性関節症の英語表記(Osteoarthritis)の略語

術式と方法

この手術には単顆置換術(たんかちかんじゅつ;UKA*)、全置換術(TKA*)という2つの術式があります。顆とは、膝の内側と外側に一つずつある出っ張りのことです。

人工膝関節置換術の術式損傷しているのが片側で、かつ靭帯の損傷がない場合は単顆置換術が行われ、双方の損傷に加えて靭帯も損傷している場合は全置換術が適応となります。

手術方法としては、単顆置換術で8〜12cmほど、全置換術であれば15〜20cmほど膝を切開します[3]。いずれの術式においても、切開後の流れはほぼ同様。損傷した骨を削ったり形を整えたりしながら、インプラント(人工の器具)の関節を設置していきます。その際にはセメントで固定する方法とセメントを用いない方法があり、術者の経験や好みで選択が分かれます。

*UKA… Unicompartmental Knee Arthroplastyの略語
*TKA… Total Knee Arthroplastyの略語

手術による身体へのダメージを抑えるため、使用率としては低いですが、MIS法(最小侵襲手術)やナビゲーションシステムといった最新の技術が用いられることがあり、低侵襲かつ正確な手術の進行に役立ちます。ただMIS法については、術後の長期的な回復度合いには差がないことなどから、私としてはこの手法が絶対に必要であるという認識はありません。一方、ナビゲーションシステムは学会などでも同意が得られており、有用な技術であると感じています。
[詳細]変形性膝関節症の治療に用いられる、さまざまな「最新」とは

インプラントの素材

ここでは、人工関節インプラントの国内シェアが50%近く[4]を占める、ジンマー社のものを例に挙げます。

人工膝関節に用いられる素材使用されるのは、チタン合金やコバルトクロム合金、ポリエチレンといった素材。大腿骨と直接ふれあう部分には、骨に馴染みやすい性質を持つチタン合金が、関節面のこすれ合う部分には、磨耗しにくいコバルトクロム合金と高分子ポリエチレンがよく用いられます。高分子性ポリエチレンには衝撃を吸収する性質があり、人工関節においては軟骨のような役割を果たします。
これまで私が診療してきた中で「どんな素材のインプラントが膝に入るのですか?」と気にされる方はごく稀でした。一般的には、素材について詳しく説明することは多くないように思います。ただ、人工関節に用いられるチタンやクロムは金属です。これらはアレルギーを生じにくいと言われていますが、もし金属アレルギーをお持ちの方がいらっしゃったら、診察時に担当医に申告するようにしてください。

術後の入院・リハビリ期間

術後には、3〜4週間程度の入院とリハビリが必要です。早い段階でのリハビリ開始が望ましく、手術の翌日にはベッドの上で足首回しをしたり、人の手を借りて車いすに座る訓練を行ったりします。翌日からリハビリをしていいのかと思われるかもしれませんが、じっとしているほうが身体には良くありません。筋肉や靭帯などが固まる拘縮や、このあと詳しく説明する血栓症が起こりやすくなってしまうためです。

術後3日程度で膝の伸展、1週程度で歩行訓練、2週程度で階段昇降と、徐々に負荷を上げていきます。3〜4週程度で経過が順調であると確認されれば、退院が可能です。

人工膝関節置換術後のリハビリ期間

優れた手術だがリスクも存在

はじめにお伝えした通り、人工膝関節置換術は大きな効果の期待できる手術です。しかし、どんな手術にも付随するのが、リスク。患者さまには予めリスクについて知っておく権利がありますし、そもそも医師には説明責任があります。術前にはリスクをお伝えすることが必須ですが、マニュアル通りに流し読みで話すのではなく、患者さまそれぞれの身体の状態を考慮した伝え方が大切だと考えています。

例えば糖尿病を患っている方には「糖尿病の方は特に感染症のリスクが高くなるので、気をつけてください」といったように強調しながら、患者さまが意識すべきことをお伝えする、といった具合です。せっかく人工関節にして痛みがなくなっても、万が一のことがあって自由に膝を動かせなくなるのはとてもつらいこと。そうした事態を可能な限り避けられるよう、リスクを認識することは不可欠なのです。

人工膝関節置換術では、主に下記の3つのようなリスクが存在します。

感染

人工関節の周囲は血流に乏しいため、白血球やリンパ球など、細菌と戦う組織も少ない状態。つまり、細菌やウイルスに対する抵抗力は弱く、感染を起こしやすい状態です。人工関節が感染することを人工関節周囲感染(PJI;Prosthetic Joint Infection)と言い、術後の早い段階で生じる早期性と、半年以降に生じる遅発性とに分類できます。

こうした感染のリスクを回避するため、病院では空気の清浄度が高いクリーンルームという手術室を使用したり、術前・術中に抗菌薬の予防投与をしたりして対策をすることがあります。東京女子医大では、術中にバンコマイシンという抗菌薬の局所投与を行っていました。感染が起こる可能性は0.5%〜2%と、施設によって報告に差があります。患者さまは、術後も虫歯や水虫に注意をし、また鍼治療のような身体に細菌が入り込むリスクのあることは控えるなどしてください。

血栓症

血栓とは、血が固まってできた塊のこと。術中から術後にかけてじっとした姿勢をとり続けることで血流が悪くなり、血栓ができやすくなってしまうのです。下肢(あし)の内部深くにできるものを深部静脈血栓症と言い、人工膝関節置換術の術中、術後には高い確率で発生していることが判明しています[5]。

これが血流に乗って肺の動脈まで到達してしまうと、肺塞栓症という重篤な合併症を引き起こすので注意が必要です。 その予防のため、血栓ができにくくする薬を処方したり、血栓予防のためのストッキングや空気ポンプを使ったりと、さまざまな対策が取られます。術後にはリハビリが行われますが、その開始が術直後から推奨されるのも、血栓症予防の観点からです。

再置換

人工関節は、その名の通り人工物です。ある程度の耐用年数があるため、使っていくうちに磨耗したり、ゆるんだり、脱臼したりすることがあり、再置換(再手術)が必要になるケースも。また、前述した感染症も、再置換となる原因の一つです。

では、なぜ人工関節の再置換が問題となり得るのか。それは、再置換を行うとなると、手術が極めて複雑になるからです。再置換においては、骨と強固に装着されている人工関節を抜去し、欠損部分へ骨移植をしたり新たに削ったりする必要があります。その過程で、血流が豊富な組織(血管、筋肉など)は、さらに切除されることになります。そのぶん手術時間や止血時間が長くなり、先述のような感染、血栓症などのリスクが増大してしまうのです。

再置換リスクの原因として、人工関節の耐用年数と人間の寿命との関係も考えられます。まず、日本人の平均寿命は飛躍的に延びています。100歳以上の人口も急激に増え、2018年9月には6万9785人と、過去最多を記録[6]。2040年代半ばには、日本人全体の平均寿命が90歳を超えるという予測もあります。また、これまで人工関節の耐用年数は15〜20年と言われてきました。現在では品質が向上し、さらに長期の使用も可能なケースが多くあります。つまり、初めて手術を受ける年齢が若ければ若いほど、人工関節を除去して新たに入れ直す、再置換が必要になる可能性は高まるのです。

人工膝関節置換術の初回年齢と再置換の割合

こちらのグラフは海外のデータですが、50〜60代で初めて人工膝関節置換術を受けた人は、2〜3割もの人が再手術を受けていることがわかります[7]。そのため、平均寿命の延びに伴う再置換リスクをしっかりと考慮した上で手術を決める必要があると言えるでしょう。

手術決定までのあるべき姿

専門用語でインフォームド・コンセントと呼ばれる概念を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。これは「十分な情報を得た上での合意」を意味します。

例えば、X線画像から変形性膝関節症の末期であると判断しただけで「手術ですね」と勧めることも適切ではありません。私が東京女子医大に勤務していた頃、人工関節置換術は患者さまのご希望がない限りは行いませんでした。まず患者さまがどうしたいかをお聞きする。手術が最良の方法だと医師が判断した場合でも、メリットのみならずリスクまで漏れなく説明する。患者さまが十分な情報を得る。そうして患者さまが納得して手術を決断する。これが、手術決定までのあるべき姿だと考えています。

決断のポイント

この記事を読んでいる方には、医師から人工膝関節を勧められている方もいらっしゃるでしょう。「痛みが取れる」「歩けるようになる」など、メリットまでは説明されているかと思います。もし決断に迷ってしまったら、次の3点を手術の決断ポイントとして考えてみてください。

  • 手術以外の治療(保存加療)について十分説明を受けたかどうか
  • 手術のメリットだけでなくリスクについても、医師から詳しい説明があったかどうか
  • 上記を踏まえ、手術を受けたいという希望がご自身にあるかどうか

リスクまできちんと知ることはできたけれど、どうしても人工関節を入れることに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。そうした場合は、セカンドオピニオンとして他院を受診するのも一つの手段です。変形性膝関節症の標準治療としては、人工関節置換術の他にも、自分の関節を温存できる骨切り術という手術があります。医師から説明を受けていなかった方でも、この手術を適応できる可能性はあるため、確認をしてみる価値はあるかと思います。
[詳細]膝の骨切り術とは〜自分の関節を残すための選択〜

また、現在は新しい選択肢として再生医療という治療法もあります。興味のある方はぜひ当院にご相談ください。

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