変形性膝関節症について

OA KNEE

変形性膝関節症の原因究明が大切な理由とは?

RELEASE:2018-12-17
UPDATE:

変形性膝関節症は、言わば軟骨の異常事態。主に膝の痛みや違和感をもたらします。診断を受け「何がいけなかったんだろう」と、これまでを振り返っている方も多いのではないでしょうか。

膝は、全体重を受け止める荷重部。立ち上がる、歩く、しゃがむなど、日常生活における動作によって常に負荷を受けているため、身体の中でも特に痛めやすい部位なのです。それでも安定した状態を保っているのは、膝関節内にある軟骨のおかげ。外からの衝撃を吸収したり、関節の動きを滑らかにしたりと重要な役割を果たしています。

そんな軟骨に異常が起きる原因は複数。何が考えられるのか、変形性膝関節症を発症してしまった今、何をすべきなのか。それらにフォーカスして解説していきます。

既往歴が関係する原因

既往歴とは、過去に負ったケガや病気のこと。変形性膝関節症が疑われる場合、医師は問診の場で「過去に膝をケガしたことはありますか?」「これまでにかかった病気を教えてください」などと質問をします。これは、変形性膝関節症の原因に既往歴が考えられるからです。具体的なものとしては前十字靭帯や半月板の損傷といったケガ、関節リウマチや偽痛風などの病気が挙げられます。

ケガや病気の経験がない方は、避けられないものが関係する原因をご覧ください。

過去のケガ

膝のケガ(外傷)が変形性膝関節症の病因になることは明確と言えるでしょう。前十字靭帯や半月板の損傷は、特に大きな危険因子。海外の研究者による報告では「損傷した前十字靭帯を再建しても、変形性膝関節症の発症リスクは3.62倍ほど残る」とされています[1]。

前十字靭帯損傷と変形性膝関節症の発症率

また、同報告によるこちらのデータは、前十字靭帯を単独で損傷した場合と、半月板や関節軟骨の損傷を併発した場合とで、変形性膝関節症の発症リスクを比較したもの。半月板や軟骨の損傷を併発した人は、前十字靭帯を単独損傷した人の3倍以上もリスクが高まるというのです。記事の冒頭でもお伝えしたように、軟骨に生じた異常から変形性膝関節症へ繋がってしまうということがお分かりいただけるでしょう。

過去の病気

過去にかかった病気によって、変形性膝関節症が引き起こされることもあります。例えば自己免疫疾患のひとつである関節リウマチは、身体の免疫システムの異常により発病。全身の関節にある健康な細胞や組織も異物とみなし、攻撃してしまう疾患です。関節では炎症が起き、それに伴って炎症系サイトカインという、軟骨の破壊に作用する物質が分泌されます。軟骨は変性を起こすと、その周囲を破壊してしまうという性質があるため、さらに軟骨が破壊され、変形性膝関節症へ進展してしまうというメカニズムです。

関節リウマチの他にも、化膿性関節炎や偽痛風などを含む結晶性関節炎などから、変形性膝関節症が引き起こされることがあります。

避けられないものが関係する原因

大きな原因として考えられるのが、加齢のように避けられない要素や、性別、遺伝といった先天的な(生まれ持った)要素。加齢と性別については、有病率が高齢者ほど高く、性差もある、という変形性膝関節症の特徴にも垣間見えます。また現在は、遺伝による影響も少なからず存在していることが明らかになってきました。

加齢

「加齢に伴って軟骨がすり減る」は、しばしば耳にするフレーズです。病院で膝の痛みを伝えたとき、加齢によるものという説明を受けた方も多いのではないでしょうか。その説明だけで適切と言えるかどうかはさておき、加齢が変形性膝関節症の発症に関係することには違いありません。実際に、高齢者の関節軟骨は自然に変性劣化していることも多く、負荷が蓄積されることでダメージを受けやすい状態になっているためです。例えるならば、長く履いた靴の底がすり減ってくるようなイメージ。これと同じことが、膝関節の中でも起きているのです。

変形性膝関節症の性別・年齢別の罹患率

こちらのグラフから読み取れるように、変形性膝関節症の有病率は加齢に伴ってぐんぐん上昇。70代以降のほぼ半数以上がこの疾患を患っていることがお分かりいただけるでしょう。当クリニックへ来院される患者さまのうち最も多いのは、60代から70代。変形性膝関節症の年齢別罹患率を見ると、40代ごろから少しずつ軟骨の変性劣化が進み、痛みも強くなってくるのがこの年代なのだと推察されます。

性別(女性)

変形性膝関節症の罹患率のグラフを見てお気づきになった方も多いでしょう。実は、変形性膝関節症の有病率には男女間で大きな差があり、日本整形外科学会によると、女性が男性の4倍も発症しているのです[2]。

女性の変形性膝関節症有病率

女性に限った場合のグラフがこちら。先ほどのものと内容は変わりませんが、80代女性では7〜8割がこの疾患を患っていることが読み取れます。当クリニックへも男性より女性が来院されることが圧倒的に多く、これだけ変形性膝関節症に苦しむ女性が多いのだと日々の診療で痛感しています。では、なぜ女性に発症しやすいのか。それには、様々な身体的特徴が関係しています。

例えば骨盤が歪みやすい、骨が脆弱になりやすいといった特徴には、女性ホルモンも関係。産前産後の体重増加、ハイヒールなどの不安定な靴といった生活スタイルも相まって、膝へは大きな負荷がかかりやすくなっているのです。

こうした膝への負荷を吸収し軽減してくれるのが、膝周りの筋肉。筋力不足の項で後述していますが、ここが強固であれば、膝へかかる負荷を軽減することができます。しかしながら、筋肉をつくるために必要なテストステロンというホルモンが、女性には非常に少ないのです。血液中のテストステロン濃度は男性の20分の1以下とも言われており[3]、女性の身体は膝にかかる負荷を吸収する態勢を整えにくい状態と言えるでしょう。そうして軟骨への負荷が蓄積し、変形性膝関節症を発症しやすくなってしまうのだと考えられます。

遺伝

近年、変形性膝関節症と遺伝子との関係性が示唆され始め、その解明に向けて多くの研究がなされています。2010年には、自然科学研究の第一人者である理化学研究所が、一塩基多型という遺伝子の型が変形性膝関節症の発症に関係していたと報告しました。この型を持っている人はそうでない人に比べ、発症リスクが1.3倍になると結論づけられています[4]。

生活スタイルが関係する原因

以下に挙げているものは、加齢や性別、遺伝といった避けられない要素とは少し異なります。主に生活スタイルと深い関係があり、変形性膝関節症の発症を助長する要素と換言できるでしょう。その代表例が、肥満や筋力不足。これらには体質的な部分もありますが、いずれも大きな原因となります。また、スポーツ歴や仕事なども、膝の使い方次第では変形性膝関節症のリスクを高めることがあります。

肥満

膝関節にかかる負荷は、体重と全く同じではありません。1キロの体重増加に伴い、膝関節への負荷は2〜3キロほど大きくなります。ただ、これは直立時の数値。何らかの動作を行った場合はさらに膝への負荷が増え、階段昇降時には3.2倍以上になるとされています。つまり、肥満であればあるほど日常的にかかる膝関節への負荷も増え、軟骨へのダメージも蓄積。変形性膝関節症のリスクも上昇します。体重が5キロ増加するごとに、変形性膝関節症を発症する可能性が36%高まるという研究報告[5]もあります。

ちなみに、これまで私が診療をしてきた中では、ほとんどの方について、肥満が発症を助長したと考えられるような印象です。発症時に肥満が思い当たる場合は、まず減量に取り組むのが鉄則と言われています。

筋力不足

避けられない要素として挙げた加齢や性別にも関係していますが、筋力不足は変形性膝関節症の大きな原因のひとつです。膝は筋肉が少なく骨張っているため、一見するとあまり関係はないように感じられるかもしれませんが、実は膝の”周辺の”筋肉と、非常に密接な関係があります。膝周辺の筋肉と言っても様々ですが、中心となるのが太もも前部の大腿四頭筋。膝にかかる負荷を吸収してくれる重要な役割を担っています。つまり、大腿四頭筋をはじめとする膝周りの筋肉が衰えてしまうと、膝への負荷がダイレクトにかかるようになるということ。そうして軟骨のダメージが増大することで、変形性膝関節症の発症へと繋がってしまうのです。特に高齢者や女性が変形性膝関節症になりやすいのは、このように筋力不足に陥りやすいからとも言えるでしょう。

注意したいのは、膝の痛みで身体を動かさなくなることです。ヒトは不活動状況になると痛覚が敏感になる、つまり痛みを感じやすくなることが示唆されています[6]。また、運動をしなくなって筋力が落ち、痛みも強くなる、そうして余計に身体を動かさなくなるという負のサイクルも、変形性膝関節症で最も気をつけるべきことの一つ。変形性膝関節症の治療において、適度な運動はむしろ推奨されます。

スポーツ歴

先述の通り、前十字靭帯や半月板の損傷は、将来的に変形性膝関節症の発症リスクを高めます。しかし、これらのケガをしたことがないという人も、膝を酷使するような激しいスポーツを継続していたなら、変形性膝関節症を発症しやすくなる傾向があります。

なぜかというと、膝関節の構造は、横の動きにあまり強くないためです。膝をひねるような動作の多いスポーツでは、膝関節や軟骨の一部分に大きな負荷がかかることもしばしば。そうした負荷の蓄積によって軟骨のダメージが増え、時間が経ってから変形性膝関節症に繋がってしまう可能性があります。例えば私が診療を行っている大宮ひざ関節症クリニックには、卓球、バレーボール、バドミントン、エアロビクス、ダンスといった、ピボット動作をたくさん行うスポーツに情熱を燃やす患者さまが多く来院されている印象です。ピボット動作とは、片脚を軸として回転や方向転換を行う動作を意味します。

職業

膝への負荷が大きい土木業や農作業といった重労働に従事していた人は、それが変形性膝関節症を発症する引き金となった可能性があります。前述の通り、膝にかかる負荷は立っているだけで2.5倍ほど。そこに重機や工具といった荷物の重さが加わると、膝への負荷はさらに大きくなります。

仕事で膝を立てたりしゃがんだりする動作をたくさんしていた、とおっしゃる方は当院にもよく来院されます。

まず原因を知り、進行を”遅らせる”ことに注力

変形性膝関節症を患う日本人は、3000万人とも言われています。高齢化という国内の状況もあってか、病院では「加齢によるもの」とだけ説明されることも、先述のとおり多々あるようです。当クリニックのアンケートでも、膝の痛みで病院を受診した40〜60歳の41名のうち、34.1%が「加齢のせいとだけ説明された」と回答しました。

しかし、加齢など避けられない要素が関係する一次性の原因や、過去の疾患から続く二次性の原因など、考えられるものは複数。そのため、つきとめることは簡単ではありませんが、加齢とだけで済ませてよいものなのかは見極めなければなりません。肥満が関係していると考えられるのであれば減量する、筋力不足であれば筋力をつけるなど適切な処置を行い、ひとつでも多くの原因を取り除く必要があるでしょう。

では、加齢や過去のケガなど、原因を除去できないケースでは手立てがないのかというと、そのようなことはありません。進行を遅らせるための一番の薬とも言えるのが、大腿四頭筋をはじめとする膝周りの筋力訓練。これは極めて重要です。再生医療を提供している当院も、膝周りの筋力訓練は並行して行うべきものとして重要視しています。

変形性膝関節症は悪化を完全に食い止めることのできない疾患ですが、進行の速度を遅らせることは可能。発症してしまった今、最も注力すべきはそこです。これから行う治療はもちろんですが、なぜ発症してしまったのか、まずは原因を知ることが大切。何にアプローチするのかを明確にしてこそ、最大限に治療の効果を得られるからです。

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